MUNI CARPETS

news letter vol.45 : アイデンティティとしての日本の家紋

2023年8月2日


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世界に誇るデザインとしての家紋

 前職のとき、東南アジアの政府高官の方に、
「Would you do me a favor?  (お願いがあるのですが)」
と声掛けされたことがありました。

一体どんなお願いをされるのかと思いましたら、
「大きな本屋に連れて行って欲しい」と仰るのです。

お嬢様がデザインの勉強をしているので、日本の家紋(family crests/family emblems)の本をお土産に買いたいのだと。日本の家紋は、世界に誇るべき素晴らしいデザインだ、とも。
フランスのラグジュアリーブランド、ルイ・ヴィトンのモノグラムデザインは日本の家紋がルーツになっているというのは有名なお話ですね。
それ以来、私はすっかり奥深き家紋の世界の虜になりました。

ルイ・ヴィトンのモノグラムデザイン
(画像:ルイ・ヴィトン社カタログ)

Identity (アイデンティティ) としての家紋

 西洋における紋章は王族や貴族など、地位の高いひとだけが所有を許されるものですが、日本で平安時代末期に貴族・武士から興った家紋は、江戸時代になると庶民にも広まります。

江戸時代末まで庶民に許されなかった苗字とは違い、シンボルマークとしての家紋は庶民にも許されていたのです。
塗り物の膳や椀、提灯やつづらなどの日用用具にも各々の家紋をあしらい、一族結束の象徴(シンボル)、家族・同族のアイデンティティを表すものでした。
家紋のモチーフは、「植物紋」「動物紋」「自然現象紋」「建造物紋」「器物紋」「文様・図象紋」「文字・図案紋」」に大別され、バリエーションは2万とも2万5千にのぼるとも言われます。

 現代の日本では、家紋は正装の紋付や墓石にしか見られなくなり、実際、ご自身の家紋を把握していない方も相当数いらっしゃいます。いえ、ご存知ない方のほうが多いかも知れません。 
MUNIスタッフにアンケートを取ってみましたところ、知っている人、知らない人、親御さんに訊いて判った人の割合がそれぞれ同じくらいでした。

折角なのでMUNIスタッフの家紋を下記に集合させてみました。
それぞれの詳細は割愛させていただきますが、家紋を見ればその家系の出身地域やルーツがおおよそ判ると言われ、5つのサンプリングだけでもバラエティに富みます。


 個人的な話で恐縮ですが、結婚したとき、嫁ぎ先の紋を着物に入れたいと思い、夫に家紋を訊いたのですが判らず。さらに義理の母に訊いても、、判らず。

当時100歳近かった義理の祖母に訊いてようやく家紋が判りました。
ようやく判った紋は、「四方木瓜に違い鷹の羽(しほうもっこうにちがいたかのは)」という紋(下記左)。
その紋を目にし、とても嬉しかったのを記憶しています。
実家の紋である「丸に違い鷹の羽」(下記右)を内包しているよう見えたからです。
長年育った実家を全く離れたわけではないような感覚を覚えました。
嬉しくて、いろんな着物に、染めで、縫いで、紋を入れたのは言うまでもありません(笑)。

   私は関東(東日本)の出身ですが、関西を中心とする西日本では、女性は「女紋」と言って父方の紋ではなく、母方の紋を嫁ぎ先に持っていく風習があるようですね。西日本でもその風習がある地域とない地域があります。祖母→母→娘へと女性に伝わる紋が存在するというのも興味深い点です。


 MUNIのカーペットの文様が、単なるデザインではなくひとつひとつ意味を持つのと同様、日本の家紋も単なるデザインにとどまらず、一族(Family)のアイデンティティを持っています。

もし、ご自身の家紋をご存知ない方がいらっしゃいましたら、帰省の折、また墓参などの折に確認されてみてはいかがでしょうか?ご自身や、一族のルーツを知るきかっけになるかも知れません。

 大人の夏休み自由研究のススメ、でした。
今号も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
どうぞ素敵な夏をお過ごしくださいませ。


(参考文献)

『日本の家紋大全』 本田總一郎監修 梧桐書院発行
『家紋 知れば知るほど』 丹羽基二監修 実業之日本社発行

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news letter vol.44 : 居心地がいいということ

2023年7月1日


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 先日、『Casa BRUTUS』特別編集「NEW STANDARD 居心地のいい家具。」にMUNI CARPETSを取り上げていただきました。中目黒のデザインギャラリーLICHT(リヒト)の須磨光央さんによる巻頭特集にて、”信頼できる目利きたち”が選んだ数々の名品家具とともにご紹介頂いています。

 “居心地のいい…家具”?と首をかしげるキャッチコピーでしたが、それがかえって、改めてMUNIのカーペットについて考える示唆を頂きました。

“舒服(Shūfú)” 的絨毯

 “居心地のいい家具”というフレーズに触れて思い出したことがあります。
1987年、MUNI CARPETSオーナーの楠戸は、初めて訪れた香港でアンティーク・チャイニーズラグと出逢い、その美しい文様と、時を経て深まり成熟した藍の色に強く引き込まれます。MUNI CARPETS誕生のきっかけとなった出来事です。

藍色のカーペットに魅入る楠戸に向かって、店主の男性は「看得很舒服」と言ったそうです。
“この絨毯を見てると心地いいよね” というような意味合いです。

“舒服(Shūfú)”というのは、気持ちや体調・身体、モノなど幅広いものについて“心地よい”という意味を表す中国語です。

1987年に楠戸が出逢ったアンティーク・チャイニーズ・ラグ

視覚からくる心地よさ

 日本では、“心地よさ”と言った場合、一般的に風合いや触り心地、使用感についてのことばという印象があるように思いますが、今回の『Casa BRUTUS』のことばにより、視覚からくる心地よさというものを再認識することが出来ました。

美しいな、素敵だな、と感じることの中には、本能的に心地よいということも含んでいるのではないでしょうか。

MUNI CARPETS Design No.009D

Therapy Carpet(セラピー・カーペット

 もうひとつ、カーペットの視覚的心地よさについてのエピソードをご紹介します。 

皆さま、セラピー(Therapy)という言葉をお聞きになったことがあるかと思います。セラピー(Therapy)=治療の意味ですが、薬や手術などによらない心理療法や物理療法を指し、香りを嗅ぐことによりリラックス効果を促す「Aroma Therapy」などは、代表的なことばでしょう。そのほか、動物に触れることによる「Animal Therapy」や、音楽を聴くことによる「Music Therapy」などもあります。  2005年にドイツのケルンでクラシカル・チャイニーズ・ラグの展覧会が開催された際、楠戸は、ロシア・サンクトペテルブルクのクンストカメラ博物館の学芸員の方の講演会に参加しました。そこで、「クラシカル・チャイニーズ・ラグはセラピー・カーペット(Therapy Carpets)だと思います」というフレーズを耳にしました。それは、「クラシカル・チャイニーズ・ラグの、他には類を見ない配色とデザインは、心に安らぎをもたらす効果がある」という内容のものでした。

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 普段は特に意識をしていませんでしたが、そのようなクラシカル・チャイニーズ・ラグを継承した上で、天然藍を中心に植物染料で染めたべーシックカラーを色数少なく配色し、シンプルにデザインしたMUNIのカーペットは、「静の美」、「動の美」とある中で、「静の美」にあたり、心が安らぐ、心地良い、という感覚を抱いていただけるのではないでしょうか。皆さまも是非、「居心地のいい家具」という視点で、一度MUNIのカーペットをご覧になってみてください。

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news letter vol.43 : 玄関(エントランス)、それは・・・

2023年6月1日


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今号は、多くの方からお問い合わせを頂戴する「玄関敷き」について。

そもそも「お玄関」とは何ものなのか。
そして皆さまの大きな関心ごとでもある「玄関敷きとは」。また、その役割について。
MUNI が家の空間の中でもとりわけ大切にしている「お玄関」のポジションとともに、お話ししてまいります。



訪れるひとに安らぎを、 去り行くひとにしあわせを

PAX INTRANTIBUS
SALUS EXEUNTIBUS


中世の風情を色濃く残す城塞都市、ドイツ・ローテンブルグ市のジュピタール門に刻まれているラテン語の碑文です。

羽田空港ターミナルのアトリウムの壁にも刻まれており、空の玄関口に相応しい、温かくて素敵なことば。自宅の玄関にも刻みたいと思うほどです(笑)。
(日本空港ビルディング株式会社様は、顧客満足理念として “PAX INTRANTIBUS  SALUS EXEUNTIBUS” の言葉を掲げていらっしゃいます)

  「玄関」は、「建物の入り口」としては世界共通なのですが、家相や方位などを大切にする日本人にとっての「玄関」とは、精神性も併せ持った、なにか象徴的な位置付けがあるのではないでしょうか。

 「結界」としての「玄関」

 「玄関」とは「結界」であり、ハレ(聖域)とケ(俗域)を隔てるもの。 
「結界」とは、仏教とともに日本に入ってきた、空間の領域を設定することばです。
のちに密教の影響を受け、「結界」の内側が浄域(聖域)、外側を不浄域(俗域)という意味も加わったといいます。
日本古来の信仰である神道においても同様の考え方があり、鳥居やしめ縄などを結界とし、それより内側は浄化された神聖な領域であるということを表すそうです。

日本建築の襖、衝立、障子、縁側なども、内と外を区切る結界の一種です
また、茶道では、茶室に至る露地に客が立ち入らないようにとの目印として縄で結んだ石(関守石・留め石)、あるいは小石に差し渡した竹筒などを置いて、結界とします。
とりわけ、茶室の入口である躙り口(にじりぐち)は、俗世間(茶室の外)と聖なる空間(茶室の中)を隔てるための重要な結界です。
茶室における躙り口(にじりぐち)は、ご自宅における玄関の位置付けにつながるように思います。

日本庭園や茶室に見られる「結界」

玄関敷きの役割

 このように日本では、一般のご家庭においてもハレ(聖域)とケ(俗域)を隔てる「結界」としてのお玄関を、象徴的な位置付けとする考え方が古来より受け継がれてきました。

 そんなお家の顔である大切なお玄関に敷く玄関敷きは、床が固いから、足を拭きたいからという実用的な目的ではなく、ハレの場である家の象徴として、もしくは外と内の「結界」として、お玄関に玄関敷きを敷くという考えが広く定着していきました。
そして現代においてもその家を象徴する玄関インテリアになくてはならないものとなり、日々のお出かけとご帰宅、そして来訪者を温かく見守ってくれる、より身近な存在へとなっていきました。

MUNIの玄関敷き

 MUNI CARPETS の玄関敷きの意匠は全て、吉祥文を用いてデザインされています。
お家の玄関(外との結界)を守るものとしてMUNI の玄関敷きは相応しく、お玄関敷き選びの際には皆さまがご自身やご自宅に相応しい文様を選ばれ、その行程を大変楽しんでくださっています。

 MUNIは創業以来、30余年にわたり玄関敷きを大切に考えてきました。
それはMUNIが日本のブランドだからこそできる、日本の住宅やライフスタイルに対応したきめ細やかなサイズの調整や、色・デザインの開発などのアップデイトを続けることなのです。

サイズやデザインを含めると今や200種類にも及ぶ豊富なラインアップ、色の美しさ、そしてクオリティの高さで多くの皆さまにご支持を頂いております。
その意匠においても、魔除けの意味を持つ龍の文様や、お家の繁栄を意味する蓮の文様、永遠の幸福を意味する唐草文様など、吉祥文様が描かれたデザインはお家の顔である玄関に相応しく、洗練された玄関インテリアの設えに一層の美と格調を添えます。
つい最近も「吉祥文様の意味通りに、幸せを運んでくれました」という嬉しいお声を頂戴したばかりですが、お客様お一人お一人の想いを文様に乗せ、親しみを持ってお使いいただけるのがMUNIの玄関敷きなのです。

今後もMUNIは、皆さまの大切なお玄関を美しく彩り、ワクワクするような魅力的な玄関敷きを制作し、お届けしてまいります。



~玄関敷きをお探しの方へ~

 お玄関の間口・奥行きのサイズと、簡単なお写真をお見せいただけましたら、MUNIのカーペットコンシェルジュがベストな一枚をご提案させていただきます。

 MUNIの玄関敷きは、皆さまを日々見守り、お客様を温かく迎えます。


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news letter vol.42 : MUNIのモダンさはどこから?

2023年5月1日


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 MUNIにお越し下さるお客様や、お求めいただいたお客様からは、光栄なことに「モダンね!」「どんな空間のインテリアにも合いそうね」などとお褒めのお言葉を頂戴しています。
そこで、今回はMUN CARPETSのモダンさと現代性にスポットを当て、深堀りしたいと思います。

Asian gallery, Metropolitan Museum of Art

| MUNI CARPETSのルーツ、明という時代

 MUNI CARPETSは、“クラシカル・チャイニーズ・ラグ”と呼ばれる、中国の「明(みん)」の時代の宮廷への献上品として製織されていた品々をルーツとしています。

「明」の時代と聞いて、どんなイメージを持たれますか?
1368年から1644年までですから、「かなり前」というイメージかと思います。

「明(みん)朝」は、モンゴル帝国の末裔である「元(げん)朝」に代わって、漢民族が興した王朝。300年程続いた最後の漢民族の王朝で、日本では室町時代・安土桃山時代・江戸時代にあたります。
1644年に少数騎馬民族である満州民族の清王朝が台頭するまでの300年間に、中国の文化芸術が洗練の頂点に達したと言われます。

© MUNI CARPETS 2023


 明代は、「文人」と呼ばれる人々が隆盛を極めた時代でした。
文人とは、士大夫(したいふ)つまり近代以前の中国における政治的・文化的支配者たる高級官僚および官僚予備軍のことで、儒家としての人文的教養を身につけ、支配的・指導的な立場にある人物たちのことを指しました。

文人は王侯・貴族・官僚・地主・地方豪族などの支配者的な階級・地位の出身者がほとんどで、彼らが私的生活において見せる姿が「文人」であり、詩人的要素、書家的要素、画家的要素などなど趣味人たる教養をすべて内包していました。

| 明代のインテリア指南書

 そんな時代に、“インテリア指南書”を著した人物がいました。文 震享(ぶんしんきょう)という、中国の代表的文人です。

 “雅(が)”と“俗(ぞく)”というのが彼ら文人のものごとの判断基準であり、知識階級の生活文化の基本的文献としての書物である『長物志(ちょうぶつし)』には、建築、設え、家具・調度品、書画、香、庭木、衣服そして乗り物に至るあらゆるものについての項目があり、「これはダメ、これは使い物にならない」という、ストイックなまでの日常の美学、生活の美学が著されています。

明代にすでに、そのような概念、美学が存在していたこと自体が驚くべきことです。
”雅(が)”は、いまで言うエレガント、上品という意味を持ちます。

| 明代の美意識で作られた絨毯

Frank Lloyd Wrightの自邸に敷かれたClassical Chinese Rug

『長物志(ちょうぶつし)』には、絨単(絨毯)の項目もあります。
その意味するところは、明代に作られた絨毯は、絨毯単体で完結して作られたものではなく、「洗練された空間に合うように」という視点で作られているという点です。
その洗練された美しさは、遊牧民や家内製によるものではなく、確固たるアート・ディレクターが存在し、その指示のもとに、しかるべき工房で制作されたことにより生まれてきたのです。

明代のモダンさは、20世紀のフランク・ロイド・ライトやココ・シャネルの部屋のインテリアに、そのままタイムリープ(Time leap)し、時代を越えていまなおモダンに映ります。

 そのルーツを継承しているMUNI CARPETSが、現代の空間にフィットするのは偶然なことではなく、作られた経緯からすれば当然の理(ことわり)なのです。
十分な存在感を持ちつつも、空間を引き立てるために計算しつくされた美。
流行ではない、トラディショナルでタイムレスな美。
それが、MUNI CARPETS。
皆さまに”モダン”と感じて頂ける所以です。

MUNI CARPETS Design No.062


(参考文献)

『長物志1  —— 明代文人の生活と意見』
『長物志2  —— 明代文人の生活と意見』
『長物志3  —— 明代文人の生活と意見』   文 震享 編  荒井 健 他訳注  平凡社

『VIRATA COLLECTION OF ASIAN ART: A FAMILY LEGACY』 —CHRISTIE’S auction catalogue—

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news letter vol.40 : MUNI CARPETSのBlue & White

2023年3月1日


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 様々な魅力的な色が存在する中、季節感やトレンドに左右されない、普遍的な色があります。
その代表格が、Blue & White。
17世紀に中国から青花(チンホァ)の陶磁器がヨーロッパに伝わることによって、その美しさと、エレガントな佇まいと東洋への憧れも纏い、王侯貴族のステイタスシンボルとなり、それはただ色としてだけではなく、スタイルとして世界中に広がりました。そして現代でも世界中の憧れでもあり、普遍的な配色・スタイルとしてインテリアやファッションに影響を与え続けています。

Gucci Resort 2017 Collection | Vogue

 その青絵付けの磁器のようにラグジュアリーで繊細な、MUNI CARPETSのBlue & Whiteの世界。そのカーペットは、どのようにして生まれて来るのでしょう。改めてその奥深さと魅力に迫ります。

|MUNI CARPETSを象徴する色: Blue

 お客様から「MUNIさんだったら藍色よね!」とおっしゃっていただけるほどMUNIの“Blue”は象徴的な色で、私どもにとっても創業以来最もこだわり抜いた色でもあります。
そのMUNIの“Blue”は、他ならぬ天然の藍から生まれるBlueなのです。
藍甕で発酵させた天然藍で染めこんだ深みある美しい色を、私どもは誇りを込めて『MUNI BLUE』と呼んでいます。

 染料となる藍は、馬藍(マーラン)と呼ばれるキツネノマゴ科の藍で、契約農家によってMUNI(漢氈居)専用の畑で大切に栽培されています。藍葉の新芽の部分だけを摘み取り、今では希少となった古来の製法「沈殿法」でその色素を抽出します。

 その後、沈殿藍は工房に運ばれ、化学薬品ではなく酒や麩(ふすま)を使う古来の製法により、実際に染められる状態になるよう、自然発酵させる製法、即ち藍建て(あいだて)を行います。

 甕覗(かめのぞき)のように淡くはかない水色ムーンライトブルーから、鉄紺(てつこん)の様な深く華やかな藍色ミッドナイトブルーまで様々なトーンのBlueを染め分けるのは、中国・蘭州にあるMUNI CARPETSの工房『漢氈居(かんせんきょ)』の職人たちによる、長年の経験と熟練した仕事の成せる技なのです。

MUNI(漢氈居)専用の畑で大切に栽培されている藍葉
MUNI(漢氈居)専用の畑で大切に栽培されている藍葉

 手間と時間をかけて作られた藍(染料)で染めこまれたウールは、藍特有の深い香りをほのかに放ち、酸素に触れるほどにその色は円熟みを増していきます。

藍で繰り返し丹念に染められ、円熟みを増していく


|MUNI CARPETSのWhite

 全てのMUNI CARPESのベースとなる、ナチュラルホワイトウールは、かつて宮廷絨毯に用いられた、世界でも大変希少な最上級のウール・灘羊(タンヤン)のもの。

その昔は塩池であったこのエリアに自生する甘草(かんぞう)を食むことによって蓄えた美しい羊毛は、繊維が細く長い、カシミアグレードの15ミクロン以下。
しかも、光を反射してキラキラときらめくほどの透明感があり、繊維に含まれる油分が大変上質なため独特のしっとりとしたぬめり感があります。

中国固有種の灘羊(タンヤン)。透明感ある艶が真骨頂


 MUNIでは、春から夏にかけてミネラル分たっぷりの草を食み蓄えたウールを秋に刈り取る成羊のオータムウールと、生後3ヶ月ほどの仔羊のベビーウールとを漉き込んでいます。羊毛は一般的には春と秋の2回刈り取りますが、春ウールより油分を含み切れにくく、艶やかで美しいのが秋ウールなのです。

 そのデリケートなウールの絨維を傷めないよう職人の手で1本1本手紡ぎし、繊細さと腰の強さを持ったMUNIだけの、しなやかで強靭なナチュラルホワイトウールの毛糸に仕上げていきます。

繊細さと丈夫さを兼ね備え、シルクと見まがうほどの艶


|MUNI CARPETSのBlue & White

明時代 成化年間(15世紀)
台北國立故宮博物院蔵

 芸術文化が花開いた明代の中国では、青花(チンホァ)と呼ばれるBlueとWhiteのみでデザインされた美術品が花開き、その潔く繊細でエレガントな佇まいは貴族達の寵愛を受け、絨毯はもちろん景徳鎮などの陶磁器の世界においても表現方法が確立されました。

 西洋の人々は、意匠の素晴らしさと共に、その文様の中に込められている願いや祈りといった精神世界の豊かさに深い感銘と憧れを持ちます。そしてやがてそれぞれの国で、マイセン、リチャード・ジノリ、ウェッジウッドなどBlue & Whiteの配色の陶磁器が生み出されていくこととなります。
東洋独特の精神性や文化の豊かさが世界の芸術文化に与えた影響の大きさは、はかり知れません。

 MUNI CARPETSが制作する、MUNI BLUEとナチュラルホワイトとの比類ないコンビネーションで織り上げた絨毯は、まるで陶磁器のように繊細な美しさを持っています。

 


 思い描いたイメージをデッサンし、そのイメージを損なわない様にデザインに起こし織り上げる為、図案のひと目ひと目を緻密に設計していきます。
その設計図は、天然素材本来の自然な美しさと力強さ、そして制作する熟練した職人たちの技によって、繊細で堅牢な美術工芸品として完成します。

 

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news letter vol.39 : “We bring you happiness”

2023年2月1日


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 MUNI CARPETSには、さまざまな吉祥文様が織り込まれています。
「デザイン性」に加え、「吉祥文様」としての意味合いを、これまでもお客様にお伝えしてきておりましたが、「文様」の持つ力、ひとに与える不思議な力、背中をそっと押してくれる力強い存在のようなものをこのところとみに感じています。

 
 幸福=happinessをもたらしてくれるのが吉祥文様ですが、その文様の織り込まれたカーペットを暮らしのなかに取り入れることにより、お客様から数々の嬉しいご感想を頂戴します。
・空間のスパイスとしての満足感、
・芸術品を部屋に取り入れた喜び、
・身体を預けたときの快適さ、
・ご家族の集う場所が生まれた、
・疲れて帰宅したときに癒してくれる場所ができた、
・住空間が広がった、
・朝・晩、お玄関を通るたびに文様にパワーをもらっている、
・愛らしい文様を見ると心が和む、

などなど、「モノ」を超えた存在としての「何か」を感じて頂いています。

 

  インテリアとしての価値にとどまらず、インテリアの先にある、皆さま百人百様の
「幸福=happiness」をご提供することを社員ひとりひとりの願いとして、
2023年、MUNIは、年間キャッチフレーズを策定致しました。

We
bring you
happiness.

皆さまにお愉しみ頂けるイベントの企画や、SNSを通じて、
ひとりでも多くの皆さまの”happiness”を願い、
2023年もMUNIは皆さまに寄り添ってまいります。

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news letter vol.38 : 年末ご挨拶に替えて

2022年12月29日

 今年も残すところわずかとなってまいりました。
皆さま新年のご準備にお忙しいころと存じます。
今年も一年、MUNI CARPETSをご愛顧下さりありがとうございました。心より御礼申し上げます。

 皆さまにとって、2022年はどのような一年でしたでしょうか?
MUNI CARPETSでは、【しみ取りワークショップ】、【売りませんDAY】といった、新たな試みに挑戦した年でした。
ホームページやInstagramなどでもご紹介しておりましたが、改めてご紹介させて頂きますと、まず【売りませんDAY】については、オープンキャンパスならぬ、“オープンMUNI” として皆さまにお気軽にお店を愉しんで頂きたいという想いを込めて、売りませんDAYという日を設けています。文字通り、カーペットをお売りしない日です。
これは、以前から多く頂いておりました「ちょっとだけ見たいけれど、買わないのに行きずらい」、「敷居が高くて店に入りずらい」という皆さまからのお声を受けたものです。

バザールで掘り出し物を探すような、ワクワク感を味わっていただけるよう、普段とは陳列も少し変えて皆さまをお迎えしています。


 もうひとつの取り組み【しみ取りワークショップ】は、ご購入前、ご購入時そしてお求めの後も、「コーヒー、ワインなど、何かこぼしてしまったらどうすればよいですか?」という多くのお客様のご心配ごとにお応えしたものです。

ご参加くださった皆さまからは、
「自分でお手入れできるとわかって安心した」
「カーペットを使うのが怖くなくなった」
「より一層カーペットへの愛情が沸いた」

というご感想を頂き、わたしたちスタッフも嬉しく感じています。
ご自身で実際にシミ取りを体験していただくことで、より快適なカーペットライフにつなげて頂いている実感があります。

このワークショップのときはとりわけリラックスして参加してくださる方が多く、お客様と近い距離感でお話ができるというのも、スタッフが楽しみにしている点です。

しみ取りワークショップの様子


  【しみ取りワークショップ】、【売りませんDAY】どちらのイベントも、回数を重ねるごとに皆さまにも少しづつ取り組みが浸透し、「MUNIってこんなことしてるんですね」「こういうイベントがあると安心です!」などなど、お陰様でご好評を頂いております。
また来年も、倉敷本社店・南青山本店ともに開催してまいります。どうぞお気軽にご参加ください。



 「手織り絨毯の店は敷居が高い」と皆さまがお感じになるひとつの理由に、日本人が圧倒的に手織り絨毯に触れる「経験値」が少なく、何か魑魅魍魎とした(笑)よく解らない存在であるということがあるのではないかと思っています。
ジュエリーや時計、洋服やバッグなどと違って、果たしてどれくらいの価格帯のものなのか、またどれくらいの価値があるのか、どのように扱うものなのか、皆目見当がつかない。なじみがなければ解りようがありませんよね。

 今やカーペットは日本のインテリアにとってなくてはならない存在になりました。
その中でも「手織り絨毯」という最も魅力的なアイテムを、欧米の人々のように身近に感じて愉しんでいただけるよう、かつてワインが日本に入ってきたときのように、私共MUNIは、クラシカル・チャイニーズ・ラグのみならず、「手織り絨毯」の素晴らしさを、より親しみやすく、より多くの皆様にお伝えできるような取り組みを、2023年も引き続き続けてまいります。何卒、来年もお引き立てくださいますようお願い申し上げます。

 皆さまと、皆さまの大切な方々のご健勝とご多幸を心よりお祈りいたします。
どうぞ穏やかで暖かな年末年始をお過ごしください。

2022年12月29日
MUNI CARPETS
スタッフ一同

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news letter vol.37 : Tiffany Rugという伝説のラグ

2022年12月1日

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 クラシカル・チャイニーズ・ラグには様々な名品がありますが、そのなかでも「Tiffany Palace Carpet」、通称:Tiffany Rug(ティファニー・ラグ)とも呼ばれる、マニア垂涎のラグがあります。
明時代の、荘厳なまでの蓮花文様のラグです。

”Tiffany Rug”の部分画像
The Textile Gallery:
『Classical Chinese Carpets in Western Collection The Kangxi period, 1661-1722』


|Louis Comfort Tiffany (1848〜1933)

 インペリアル・イエロー(黄金)に輝く”Tiffany Rug”の名称の由来は、かつての所有者ルイス・カムフォート・ティファニー(Louis Comfort Tiffany:以下、”L.C.ティファニー”)の名前から来ています。
水色のboxで有名な宝飾店、TIFFANY and Co.の創業者チャールズ・ルイス・ティファニーの息子です。

晩年のルイス・カムフォート・ティファニー
画像:Marilynn A. Johnson著『Louis Comfort Tiffany artist for the ages』

 

 現在のTIFFANY and Co.は、1837年に創業者のチャールズ・ルイス・ティファニーが友人のジョン・B・ヤングとともにニューヨークのブロードウェイに店を開いたのが始まりで、主に中国のアンティークや高級雑貨を扱っていました。
L.C.ティファニーはそのような環境の中、アジア、とりわけ中国や日本の文化芸術に強く惹かれていきます。そして、家業の宝飾業の分野よりむしろ芸術家、室内装飾家として名を馳せ、アメリカにおけるアールヌーボーの第一人者となります。

|“Light Comes from the East”

 L.C.ティファニーは、自身を「色彩を重んじる芸術家」としており、生涯のうちの多くの時間、世界各地を旅して各地の宝石や家具、木工品や絵画を蒐集することで新たなデザインのヒントを求めました。

  L.C.ティファニーのニューヨーク・ロングアイランドの自邸:Laurelton Hallには、”Native American room”などのほかに、”Chinese Room”、“Japanese Room”という部屋があり、東洋の芸術品で溢れていました。
彼が手掛けたアールヌーボーの作品群にはしばしば東洋美術の色彩にインスパイアされたものが多く見られますが、彼の個人コレクションや中国美術・日本美術への情熱の深さについては、あまり知られてはいません。
19世紀後半、多くのアメリカの芸術家にとって東洋(the East)の芸術が一過性の流行だったのに対し、L.C.ティファニーにとっては生涯情熱を傾けるものであり続けました。

Tiffany Lamp。
日本の秋の風物詩であり「勝ち虫」の別名を持つトンボがモチーフ。
画像:Marilynn A. Johnson著『Louis Comfort Tiffany artist for the ages』

|クラシカル・チャイニーズ・ラグとの邂逅

 時は1910年代。
2022年8月1日配信のメールマガジンでもご紹介しましたが、中国では清王朝が崩壊し、王宮である紫禁城の調度品の品々の一部が、欧米や日本の古美術商(House of Yamanaka=山中商会)の仲介により欧米のマーケットに紹介するやいなや上流階級のひとびとの羨望の的となります。

 羨望の眼差しを向けたセレブリティのひとりが、今回の主人公L.C.ティファニー。
1895年からブロードウェイに店を開いていたHouse of Yamanakaから、紫禁城および満州の王宮を飾っていた調度品を入手します。
それが、L.C.ティファニーとクラシカル・チャイニーズ・ラグとの出逢いでした。
「色彩」に人並外れた感覚を持っていた彼が、神々しいインペリアル・イエローに心をわしづかみにされたのは想像に難くありません。

1911年山中商会のオークション目録
MUNI蔵書
 

| Tiffany Collection

 L.C.ティファニーは、1918年、次世代の芸術家たちに活躍の場と自由を与えることを目的とし、Louis Comfort Tiffany財団を設立します。そして、広大な土地と、生涯を通じて蒐集した膨大なコレクションを含むLaurelton Hallの自宅財産を財団に寄付しました。

 財団設立のもうひとつの目的は、コレクションを保存することでしたが、1933年のL.C.ティファニー没後、Laurelton Hallの維持管理が困難となり、1945年以降、財団は全ての財産をオークションで売却して現金化する苦渋の決断を余儀なくされます。
こうしてオークションによって現金化された財産は、芸術を学ぶ学生たちの教育援助資金として使われ、結果的に、L.C.ティファニーが望んだ目的の使途となりました。

 1946年にニューヨークで行われたオークションでは、彼自身の作品を含むコレクションが公開されました。
広範囲に及ぶラグも注目を浴び、オリエンタルラグ、毛皮のラグのほかに、彼自身の設立した「Tiffany Studios」がデザイン・制作したラグも含まれていたそうです。
オークションの様子を写した下記写真の左下部に、伝説の“Tiffany Rug”が見て取れます。

1946年に行われたTiffany Collectionオークションの様子
画像:Yale University Press: 『LOUIS COMFORT TIFFANY AND LAURELTON HALL』


 

|現代に蘇った“Tiffany Rug”

 現在、MUNI CARPETSでは、メトロポリタン美術館に所蔵されている同類の作品を参考に再現した”Tiffany Rug”がご覧頂けます。Covid-19の数年を経て、蘭州にある工房から織りあがってきたその作品は、とりわけ黄色の発色が素晴らしく、かつて「インペリアル・イエロー」と呼ばれた鮮やかで高貴なクラシカル・チャイニーズ・ラグに限りなく近い、神々しいばかりの仕上がりです。

  L.C.ティファニーも惹かれたであろう鮮やかな黄色、インペリアル・イエロー。
実は長年研究を重ねつつも、出したくても出せなかった色でした。
工房・漢氈居では、Covid-19の期間もこの色を再現するための努力を脈々と続けてくれており、この度、MUNIの特別なラインであるインペリアルラインとして、満を持して皆さまにお披露目が叶うこととなりました。

南青山本店、倉敷本社店にてご覧いただけますので、ご興味おありの方は事前にご連絡頂けましたら、ご準備させて頂きます。(2022年12月1日現在)


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news letter vol.36 : 特筆すべきインテリアデザイナーたちとチャイニーズ・ラグ

2022年11月2日

MUNIでは、月に1度メールマガジンをお届けしています。
その内容をこちらでも紹介させていただきます。

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 MUNI南青山店からほど近い表参道には、LOUIS VUITTON、ARMANI、CHANEL、GUCCI、HERMES、Ralph Laurenなど世界のラグジュアリーブランドが軒を連ねています。ウィンドウには暖かなアウターがディスプレイされ、その華やかな雰囲気に、仕事帰りに通りをそぞろ歩くだけでも気分が高揚してきます。

|美学の延長線上である住まい

 ブランドショップを訪れたときに感じる高揚感を作り上げているものは、商品である服やバッグ、靴だけではありません。店舗の設え、家具の配置の仕方、小物使いや飾られている花など、その空間自体に魅力が詰まっています。

  例えば、ラグジュアリーブランドのひとつ、ARMANIは、2000年にARMANI|CASAというプロジェクトを発表しました。これは、デザイナーのジョルジオ アルマーニ自身が、住まいを美しく装飾することへの憧れから、自らのビジョンや美学をインテリアデザインの領域にまで拡げ、トータルライフスタイルを提案するプロジェクトを構築したもので、ファッションの領域を超えて自身が理想とする美学の延長線上に位置づけたものだそうです。

  そんな「理想の美学の延長線上たる住まい」を表現する天才ともいえる、世界のカリスマ的インテリアデザイナーたちをご紹介していきます。


|特筆すべきインテリアデザイナーたちとチャイニーズ・ラグ

1:PETER MARINO ピーター マリノ

 上記に挙げたイタリアン・モードの巨匠ジョルジオ アルマーニは、世界各地に自邸を持っていましたが、彼の創作の基地とも言えるミラノの自邸のインテリアデザインを手がけたのは、ピーター マリノ(Peter Marino)。
ピーターマリノは世界のハイブランドのフラッグシップショップ(旗艦店)を手がける、今をときめくインテリアデザイナーの一人です。日本では銀座のCHANELや、BVLGARIなどの店舗を手がけたことで有名です。

  1980年代、そのピーター マリノがジョルジオ アルマーニの依頼を受け表現したのは最も優雅で洗練された時代・1930年代の香り漂うシンプル・ラグジュアリーでした。選んだのは、1930年代のフランスのインテリアデザイナー、ジャン・ミッシェル・フランク(Jean Michael Frank)の家具と、そして、チャイニーズ・ラグ。シンプルな西洋のモダンな家具と空間をベースに、東洋の優雅な伝統美が融合されたラグジュアリーな空間を実現しました。

画像:AD Magazineフランス版より
Visite du palais milanais de Giorgio Armani | AD Magazine

 

2:FRANCES ELKINS (1888-1953) フランセス エルキンス

 20世紀初頭には、それまでの様式化されていたインテリアから、さまざまな国や時代をミックスした「エクレクティック(折衷)スタイル」を提唱した立役者がいました。
アメリカ人インテリアデザイナー、フランセス エルキンス(Frances Elkins)です。

 エルキンスは1908年から1911年の間、ヨーロッパを精力的に回るなかで建築などについての強い影響を受けました。
その滞在中、フランスの著名なインテリアデザイナーであり家具デザイナーである ジャン・ミッシェル・フランク (Jean Michael Frank) やスイスの彫刻家アルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)と出逢い、エルキンスは、その後彼らに調度品を制作してもらうこととなります。
そしてエルキンスとの仕事が、ジャン・ミッシェル・フランク、アルベルト・ジャコメッティの二人のアメリカでのキャリアを押し上げました。

 1930年代に入りエルキンスのキャリアは大きく開花しました。彼女は、特別にデザインしたpalazzo(館)にて、数々のスタイリッシュで文化的なヨーロッパの友人たちをもてなしました。そのなかには、サルバドール・ダリやココ・シャネルもいました。

 エルキンスもまた、モダンでラグジュアリーな設えに欠かせないアイテムとして、東洋の伝統美を表現するためにチャイニーズ・ラグを取り入れていました。
 エルキンスが提唱した洗練されたスタイルは、現代のインテリアデザイナーたちに多大な影響を与え、現在では普遍的なスタイルとして世界中で取り入れられています。

出典『CALIFORNIA DESIGN LIBRARY Living Rooms』
Diane Dorrans Saeks著、沖野十亜子訳 


3:MICHAEL S SMITH  マイケル スミス

 アメリカのインテリアデザイナーTop 10に選ばれ、オバマ大統領時代のホワイトハウスの住まいも手掛けたのが、L.A.の超カリスマ的存在マイケル スミス(Michael S Smith)。上述のフランセス エルキンスの組み合わせた膨大なデザインやスタイルから、今でもインスピレーションを得ているといいます。

「そこに住む人を思わせる部屋」をモットーにデザインされたラグジュアリーな空間は、L.A.に限らずN.Yのセレブリティにも絶大なる人気があります。そんなマイケル・スミスが彼自身の館に選んだのは、これまたチャイニーズ・ラグ。

ここでも、西洋のヴィンテージ・モダンをベースに、東洋の伝統美を取り入れることで、モダンで、よりラグジュアリーな空間を実現しています。 チャイニーズ・ラグを取り入れたこのスタイルは1930年代のエルキンス時代から続くラグジュアリーのお手本となっているのです。

出典『California Interiors』
Diane Dorrans Saeks著


4:THOMAS O’BRIEN トーマス  オブライエン

 最後にご紹介するのは、ニューヨークを拠点に活躍し、かつてラルフローレンのフラッグシップショップなどのインテリアデザインを手がけた実績があり、自身のインテリアブランドも展開するトーマス オブライエン(Thomas O’Brien)。

 彼のデザインはニューヨーカーらしい、重厚さと、モダンクラシカルな、様式にとらわれない「エクレクティック」で表現されています。

彼がインテリアデザインを進めていく際、まずカーペットを決めることから始めるといいます。それだけカーペットはインテリアの印象を方向づけるからなのです。
下の写真では、たっぷりとした余白に中国の伝統的な龍の意匠のカーペットが、コロニアルスタイルの椅子や18世紀のロココ調の椅子などを、モダンかつシックにまとめあげる役割をしています。
モードの世界にも精通したオブライエンならではの軽快なカッコ良さが魅力です。

   余談になりますが、表参道のラルフローレンでも各コーナーごとにヴィンテージカーペットが惜しげなく敷かれており、またブルーアンドホワイトのジンジャーポットなどの小物が、ラルフがイメージするアメリカンラグジュアリーを表現しています。

出典『THOMAS O’BRIEN  LIBRARY HOUSE』
Thomas O’Brien & Lisa Light共著  


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news letter vol.35 : オリエンタルカーペット鑑賞のツボ

2022年10月1日

MUNIでは、月に1度メールマガジンをお届けしています。
その内容をこちらでも紹介させていただきます。

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 “オリエンタルカーペットを鑑賞する”という文化は、元々は欧米に始まります。

100年以上前に作られたアンティークカーペットに見られる、機械や化学染料を使わず丁寧に作られた「染織の美」は、絵画やその他の美術品と並ぶ見どころがあるのです。
デザインはもとより、手紡ぎの糸ならではの味わいや日光による退色や、色の深まりなどです。

 このように美術工芸品の美を愛でる習慣は日本でもあり、古来より、手描きの染付や手びねりの茶碗の、ひとつひとつの味わいを鑑賞しました。
偶然によって生まれた釉薬の変化やヒビなどを、茶人たちは「景色」として愛で、相応しい【銘】をつけました。そしてそれが、鑑賞におけるひとつのポイントともなります。なんとも風流で粋な文化です。


|手仕事によるものづくりを続ける理由

 私どもMUNI CARPETSが、明末期から清初期の宮廷絨毯=クラシカル・チャイニーズラグの伝統を引き継ぐことは、往時の製法により生みだされる「偶然性の美」、「人智を超えた美」を追求することに他なりません。

 MUNIの絨毯は、プレミアムウールを手で紡ぎ、天然の染料で染め、手結びにより織り上げていることはかねてよりお伝えしているとおりですが、それらを採用している理由について、これまでなかなかお伝えする機会がありませんでした。

 それらを採用しているのは、単に往時の製法であるからということ以上に、ひとつひとつ表情の異なる、美しい個性ある作品を生むために必要なプロセスであるからです。  

 手紡ぎした糸には太細が生まれるため、織りあがった絨毯に美しい「景色」を与えます。均一的な量産のプロダクトに囲まれているいま、いびつ、とか、均一でない、と感じられるものがあるかも知れません。
しかしながら、私どもMUNIが目指すところは、画一的で工業的なものづくりではなく、ひとつひとつ違って当然の、そしてそれが魅力である、手仕事によるものづくりであり、それにより生まれる「美」なのです。

 偶然性により生まれる「景色」。それこそが、今回お伝えしたい、鑑賞のツボです。

|其の一: アブラッシュという景色

 「景色」といっても、ではどういった「景色」が見どころなのかを、具体的にお伝えしていきましょう。

 

 画像は、ホワイトのフィールドに藍の草龍のデザイン(Design No.041(801))。
潔い白と藍のコントラストが人気のデザインですが、ただ白いだけではありません。

この作品のフィールドに、横にうっすらと筋状に入る「景色」がご覧になれますか?この「景色」は手紡ぎした糸の太細が生む現象で、【アブラッシュ】と呼ばれます。
一部に入ることもあれば、全体に入ることもあります。

 染色用語なので普段あまり耳にすることがない言葉かも知れませんが、アブラッシュは手織り絨毯の証。
欧米では、アブラッシュが入っていることが上質な絨毯の評価ともなります。

 MUNIの絨毯は天然の染料で染めあげるため、温度・湿度などにより染め上がりの色はその時々の一期一会。
一期一会の色が糸の太い箇所、細い箇所に入り込み、独特の美しいアブラッシュとなります。
機械織りでは決して生まれないものであり、自然の賜物なので、アブラッシュがどのように出るかは、織りあがってみないと判りません。
まさに「神のみぞ知る」、偶然性により生まれる景色です。

 とりわけ、Design No.041(801)のフィールドは、染料で染めていない羊の原毛を使っています。
羊には、真っ白だけでなく、グレイやブラウン、黒い毛など様々な種類が居ますね?
白い羊であっても、グレイやブラウンの毛が混じっており、織りあがったときに得も言われぬアブラッシュが浮かび上がります。

このホワイトのフィールドの景色に、【刷毛目】【三島手】【雲海】あるいは【石庭】などの銘がついていたら、、、どうでしょう?
龍がより生き生きと見えませんか?



 もう一枚、貴重なアブラッシュが出ている作品をご紹介してみましょう。
Design No.009Fです。
この一枚には、淡いピンク色のフィールドに太陽の光を受けてきらきらと揺らぐ【水面(みなも)】のような、なんともレアなアブラッシュが生まれています。
使い込んでいくほどに艶が増し、よりきらきらとした表情になっていく一枚です。

フィールドの部分を拡大して見てみます。

【水面】がご覧いただけるでしょうか。
優しい印象のこの作品には、【水面の蓮】という銘をつけました。
この銘から、皆さんならどんな季節のどんな情景を思い浮かべますか?



其の二: 天然染料の経年変化の美しさ

 次にご紹介する鑑賞のツボは、「天然染料の経年変化」です。

目にも鮮やかなこちらの作品。
ギャラリーで新品の状態を目にしたら、「んーこれは好みじゃないかな」と候補から外される方が多いかも知れません。

ところがこの色の取り合わせは、10年後、驚く変化を見せます。
かなり鮮やかな印象を与えている珊瑚のようなオレンジは、柿色のように。
元気良い黄色は、落ち着きのある象牙のように。
すべての色が溶け合い、まるで天真爛漫な少女が、しっとりした大人の女性に成長するかのようです。

どの作品もそうですが、新品の状態は【未完成】なんです、と店頭でよくお伝えしています。使っていくことで育てて頂くのです、と。
艶や柔らかさもそうですが、色合いについては、10年後、20年後の美しい変化を狙って制作しているのです。
ですから、新品の状態でご覧になっている色は、最終形ではありません。

「この色はどのように変化していくのかな。」と、未来の美しい姿を想像しながらご覧になってみてください。

|100年後のアンティークを見据えて

 100年未満のものはヴィンテージ。
100年を越えないとアンティークと呼べないと言います。

1987年にスタートしたMUNIは、現在創業35年。
創業当初の作品もいまはまだ「ヴィンテージ」かも知れません。

しかし、MUNIのものづくりは、「アンティーク」を見据えています。
確固としたものづくりが証明されるのは、100年後。

ただ古いだけのアンティークではなく、美しく、かっこいいアンティークを目指して。
今から楽しみでなりません。

400年前のアンティークカーペット (MUNI所蔵)



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