news letter vol.69: MUNIアートディレクター楠戸 謙二のクリエイティブの源泉
2025年9月1日
MUNIでは、月に1度メールマガジンをお届けしています。
その内容をこちらでも紹介させていただきます。
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|古典のなかにこそ、モダンが潜んでいる

経年して落ち着いた色目となった明代の裂(きれ)地。
カーペットではありませんが、MUNIのアートディレクションのための貴重な資料として、MUNI代表・楠戸謙二が所蔵しているアンティークです。
明代の裂は日本では名物裂と呼ばれ、安土桃山~江戸時代の茶人たちの垂涎の的であり、芸術の極致でした。
こっくりとした茶の地色に、明代にしか使われていなかったグリーンが、白、藍、などの周りの色に品格ある雰囲気と透明感をまとわせており、むしろ新鮮ささえ感じさせてくれます。
今号では、MUNI CARPETSのアートディレクションを手掛ける楠戸が、新たなデザインや新色を生み出す“源泉”の一端を垣間見ていきたいと思います。
「古典の中にこそ、モダンが潜んでいる」という考えのもと、その魅力にフォーカスして抽出することで、新たな作品が生まれます。
明代の裂地から抽出したのは、地色の茶色とグリーンの色の取り合わせ。
そして誕生したのが、MUNI CARPETS LINE Design No.009DとNo.009E。
“アッシュブルー”と“テラコッタブラウン”のニュアンスある空気感と洗練されたモダンさが根強い人気を集める2色です。

Design No.009D, No.009E
|インスピレーションは街中でも
何か参考になるものを、と美術館に足を運んだりすることはありません。むしろ、インスピレーションは突然降ってきます。
下画像の唐草文様は、明代の伝統的な唐草であり、MUNI CARPETS LINE のDesign No.093シリーズとして既にいくつかの色でデザイン化していたものですが、“淡い水色地に藍色唐草”の取り合わせは、街中で“降って”きました。
六本木ヒルズでタクシーを降りたときに目に飛び込んできた、ショーウィンドウの中のイタリアンモードのドレスの色の取り合わせです。
その瞬間のインスピレーションから生まれたのがDesign No.093Gという色合いです。

|身の回りのもの全てがイメージソース
MUNI直営店の店内には様々な調度品を置いており、MUNIの世界感を醸し出すスパイスともなっています。
台湾で求めた茶器や南方の茶碗、宋代の沈没船から引き揚げられた海揚がりの小壺、磁州窯の丸い壺、緑釉の燭台、元(げん)の時代のベルトバックル・・・。
縁あって楠戸の元に集まってきたものたちです。
それらは、ただ漫然とオブジェとして置かれているだけでなく、楠戸が「好き」「美しい」と感じるそれらの色合い、風合い、家具のディティールに至るまで、全ては「カーペットを生み出すためのイメージソース」となっています。

明の時代のクラシカル・チャイニーズ・ラグに敬意を表し、楠戸自身の常にアップデートされたフィルターを通して文様を再構築しつつ、要素を抜き差ししたり、色合いやバランスなどに新たな息吹を吹き込んでリ・クリエイトするのが、楠戸のアートディレクションの姿勢。
「当時のものをそのまま再現すること」ではなく、「自分が美しいと思うものを作る」という、妥協を許さない美への追究へと繋がっています。

カーペットの下絵を自身が直接手掛ける楠戸だからこそ、生み出すカーペット一枚一枚の細部にわたり、こだわりと思い入れが詰まっています。
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