MUNI CARPETS

news letter vol.20: カーペットにまつわる話 ~一枚のカーペットが出来るまで~

2021年7月1日

MUNIでは、月に1度から2度メールマガジンをお届けしています。
その内容をこちらでも紹介させていただきます。


 MUNI CARPETSは “モダン・シノワズリ” をコンセプトに、東洋の美の源流である中国の明朝末期から清朝初期に作られた最高峰の絨毯(クラシカル・チャイニーズ・ラグ)の製法と伝統美を蘇らせ、現代に合わせてアップデートしています。  
 そのなかでもとりわけ、伝統文化の継承と技術の向上を目的とし、図案、染色、織りの各分野で専門チームを組み、明代・清代の技術や意匠を調査研究し、試作にも長い時間をかけて限定作品として特別に制作しているのが、MUNIの「The Imperial Line」です。

 Imperial Line のDesign No.125「万歴龍」の制作を例に、一枚のカーペットが出来上がるまでを辿ります。
なかなか旅行が難しいご時世、想像の“ショートツアー”に皆さまをお連れしましょう!

【出逢い・インスピレーション】

 MUNI CARPETSのアートディレクションは、一枚一枚すべてオーナー・楠戸謙二が手がけます。
永年に亘り研究を重ねてきたクラシカル・チャイニーズ・ラグの美しさを熟知した上で、楠戸自身の美意識のもと、”クラシック”の中から”モダン”を抽出し「時空を超えた新しさ」をコンセプトとしてディレクションを行っています。  

明朝末期から清朝初期のクラシカル・チャイニーズ・ラグの文様を忠実に再現していくにあたり、そのインスピレーションの源は、書籍のなかのモノクロ写真のこともあれば、現存する実物から得ることもあります。 
今回例に挙げるDesign No.125 「万歴龍」の場合は後者、実際に北京の紫禁城で使われていた実物でした。

2009年 紫禁城にて Bill Zhang撮影

 2009年楠戸は、北京の故宮博物院にて、かつて明の王宮を飾っていた巨大なカーペットを目にする僥倖を得ました。それは、時を経てもなお色鮮やかで、いまにも動き出しそうな二匹の龍の文様。五つ爪の龍は、まぎれもなく皇帝が使っていた証です。 
この五つ爪の龍を、どうしても自らの手で蘇らせたいと強く思ったのです。

【考証】

 この龍のカーペットは果たしてどの年代に作られたものなのか?
時の権力者(皇帝)の好みによって柄行に特徴があるため、同じ年代に作られたであろうカーペットを検証することなどで、時代考証をしていきます。完全な形で残っていることは稀有なため、検証対象は残欠であることもあります。
 染料が褪せて判別できない場合には、この部分の文様は何かを探るため、歴史文献にあたらなくてはならないことはしばしばです。

どんな色の何が描かれていたのかが想定されたあとは、果たして何の染料をどのように使ったかの検証です。

北京故宮博物院 研究室にて
右から2番目:工房パートナーBill Zhang、右端:オーナー楠戸 謙二

【下絵】 

 全てのデザインは下絵師により実物大の下絵を方眼紙に手書きで制作します。巨大なオリジナルのサイズから、サイズ調整をし、実際床に置いた目線や様々な角度から確認しながら1年から3年の時間をかけ下絵を完成させます。このとき、使う色も書き込んでいきます。下の画像の中にある「973」「801」というのは色見本の番号です。

【染め、織り、仕上げ】 

 染め出したい色に向け、藍、蘇芳(すおう)、槐(えんじゅ)、梔子(くちなし)など古来用いられてきた植物染料のみを使い、手で紡いだプレミアムウールを染めます。
自然相手ですから、なかなか意図した色が出てくれません。

染めの次の工程は、織り。
MUNI CARPETSの織りは、2000年以上前から受け継がれてきた「手結び」による製法です。
経糸に対してひと結びずつ手結びで織り上げていく、気が遠くなるような作業です。
手結びによるカーペットは、欧米では「最高峰の製法」と言われており、現在でも、この技術を越える製法はありません。

 原寸大の図案と、色糸番号指定を細かく記した指示書が織りの職人に手渡され、職人は、指示書に忠実に織り上げていきます。
今回のカーペットのサイズ(183×274cm)の場合、織りだけでも1年近くを要しました。

 

 織り上がったカーペットを機(はた)から降ろしたら、何度も何度も洗い、表面を刃物で整えます。表面を滑らかにするのには一般的に化学薬品や電気器具が使われますが、MUNIでは、ウール本来の色としなやかな質感を損なわないよう、敢えて刃物だけで職人の指先の感覚で整えていきます。

  フリンジ(房)を整え、防虫のためのクヌギの樹液を施してようやく完成です。着想から丸4年超。明時代の宮廷の奥深くに眠っていた龍が、現代に活き活きと蘇る、感激の瞬間です。 多くの人の手と膨大な時間の結集により、MUNI CARPETSの制作が成り立っているのです。

現代に蘇った、明時代の「万歴龍」(183×274cm)


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