news letter vol.35 : オリエンタルカーペット鑑賞のツボ
2022年10月1日
MUNIでは、月に1度メールマガジンをお届けしています。
その内容をこちらでも紹介させていただきます。
過去のアーカイブはこちらから
“オリエンタルカーペットを鑑賞する”という文化は、元々は欧米に始まります。
100年以上前に作られたアンティークカーペットに見られる、機械や化学染料を使わず丁寧に作られた「染織の美」は、絵画やその他の美術品と並ぶ見どころがあるのです。
デザインはもとより、手紡ぎの糸ならではの味わいや日光による退色や、色の深まりなどです。
このように美術工芸品の美を愛でる習慣は日本でもあり、古来より、手描きの染付や手びねりの茶碗の、ひとつひとつの味わいを鑑賞しました。
偶然によって生まれた釉薬の変化やヒビなどを、茶人たちは「景色」として愛で、相応しい【銘】をつけました。そしてそれが、鑑賞におけるひとつのポイントともなります。なんとも風流で粋な文化です。
|手仕事によるものづくりを続ける理由
私どもMUNI CARPETSが、明末期から清初期の宮廷絨毯=クラシカル・チャイニーズラグの伝統を引き継ぐことは、往時の製法により生みだされる「偶然性の美」、「人智を超えた美」を追求することに他なりません。
MUNIの絨毯は、プレミアムウールを手で紡ぎ、天然の染料で染め、手結びにより織り上げていることはかねてよりお伝えしているとおりですが、それらを採用している理由について、これまでなかなかお伝えする機会がありませんでした。
それらを採用しているのは、単に往時の製法であるからということ以上に、ひとつひとつ表情の異なる、美しい個性ある作品を生むために必要なプロセスであるからです。
手紡ぎした糸には太細が生まれるため、織りあがった絨毯に美しい「景色」を与えます。均一的な量産のプロダクトに囲まれているいま、いびつ、とか、均一でない、と感じられるものがあるかも知れません。
しかしながら、私どもMUNIが目指すところは、画一的で工業的なものづくりではなく、ひとつひとつ違って当然の、そしてそれが魅力である、手仕事によるものづくりであり、それにより生まれる「美」なのです。
偶然性により生まれる「景色」。それこそが、今回お伝えしたい、鑑賞のツボです。
|其の一: アブラッシュという景色
「景色」といっても、ではどういった「景色」が見どころなのかを、具体的にお伝えしていきましょう。
画像は、ホワイトのフィールドに藍の草龍のデザイン(Design No.041(801))。
潔い白と藍のコントラストが人気のデザインですが、ただ白いだけではありません。
この作品のフィールドに、横にうっすらと筋状に入る「景色」がご覧になれますか?この「景色」は手紡ぎした糸の太細が生む現象で、【アブラッシュ】と呼ばれます。
一部に入ることもあれば、全体に入ることもあります。
染色用語なので普段あまり耳にすることがない言葉かも知れませんが、アブラッシュは手織り絨毯の証。
欧米では、アブラッシュが入っていることが上質な絨毯の評価ともなります。
MUNIの絨毯は天然の染料で染めあげるため、温度・湿度などにより染め上がりの色はその時々の一期一会。
一期一会の色が糸の太い箇所、細い箇所に入り込み、独特の美しいアブラッシュとなります。
機械織りでは決して生まれないものであり、自然の賜物なので、アブラッシュがどのように出るかは、織りあがってみないと判りません。
まさに「神のみぞ知る」、偶然性により生まれる景色です。
とりわけ、Design No.041(801)のフィールドは、染料で染めていない羊の原毛を使っています。
羊には、真っ白だけでなく、グレイやブラウン、黒い毛など様々な種類が居ますね?
白い羊であっても、グレイやブラウンの毛が混じっており、織りあがったときに得も言われぬアブラッシュが浮かび上がります。
このホワイトのフィールドの景色に、【刷毛目】【三島手】【雲海】あるいは【石庭】などの銘がついていたら、、、どうでしょう?
龍がより生き生きと見えませんか?
もう一枚、貴重なアブラッシュが出ている作品をご紹介してみましょう。
Design No.009Fです。
この一枚には、淡いピンク色のフィールドに太陽の光を受けてきらきらと揺らぐ【水面(みなも)】のような、なんともレアなアブラッシュが生まれています。
使い込んでいくほどに艶が増し、よりきらきらとした表情になっていく一枚です。
フィールドの部分を拡大して見てみます。
【水面】がご覧いただけるでしょうか。
優しい印象のこの作品には、【水面の蓮】という銘をつけました。
この銘から、皆さんならどんな季節のどんな情景を思い浮かべますか?
其の二: 天然染料の経年変化の美しさ
次にご紹介する鑑賞のツボは、「天然染料の経年変化」です。
目にも鮮やかなこちらの作品。
ギャラリーで新品の状態を目にしたら、「んーこれは好みじゃないかな」と候補から外される方が多いかも知れません。
ところがこの色の取り合わせは、10年後、驚く変化を見せます。
かなり鮮やかな印象を与えている珊瑚のようなオレンジは、柿色のように。
元気良い黄色は、落ち着きのある象牙のように。
すべての色が溶け合い、まるで天真爛漫な少女が、しっとりした大人の女性に成長するかのようです。
どの作品もそうですが、新品の状態は【未完成】なんです、と店頭でよくお伝えしています。使っていくことで育てて頂くのです、と。
艶や柔らかさもそうですが、色合いについては、10年後、20年後の美しい変化を狙って制作しているのです。
ですから、新品の状態でご覧になっている色は、最終形ではありません。
「この色はどのように変化していくのかな。」と、未来の美しい姿を想像しながらご覧になってみてください。
|100年後のアンティークを見据えて
100年未満のものはヴィンテージ。
100年を越えないとアンティークと呼べないと言います。
1987年にスタートしたMUNIは、現在創業35年。
創業当初の作品もいまはまだ「ヴィンテージ」かも知れません。
しかし、MUNIのものづくりは、「アンティーク」を見据えています。
確固としたものづくりが証明されるのは、100年後。
ただ古いだけのアンティークではなく、美しく、かっこいいアンティークを目指して。
今から楽しみでなりません。
* * *